white minds

第三十三章 流れゆく時の中で‐8

 どうしてこんな顔ぶれになったのだろうと、アキセは自問した。今は神界へ向かって歩いているところだが、どうしても背後が気になって仕方がない。
 シリウスを筆頭とするカイキ連合チームは八人だった。最多の人数だが統率感ゼロの恐ろしいメンバーなのである。
 シリウス、アキセ、サホ。ここまではいい。平和な面子だ。だがそこへユキヤとあけりが加わると話は変わってくる。ファラールの教会でもそうだったが、まずユキヤとシリウスの馬が合わなかった。今も先頭を行くシリウスを、ユキヤが不機嫌そうににらみつけているところだ。
『あけりは、バランスではちょっとしたマスコット的な存在だから』
 そう前に雷地が説明していたのを思い返す。あけりとシリウスが仲良いのが問題らしい。不思議な取り合わせだが、気づけばよく話している。今もシリウスの横ではあけりが物珍しげに辺りを見回してところだ。
「アキさん、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「ああ、何でもない」
 今後を心配するあまり具合悪くなってきたアキセを、サホが見上げてきた。アキセは首を横に振ると、肩越しに後ろを一瞥する。むっつりとしたユキヤの後ろには、少し離れてカイキ、ネオン、イレイの姿があった。
 どうせならビート軍団は一緒にしてくれたらよかったのに。
 アキセは気づかれないようにため息をついた。新入りであるナチュラルを押しつけられない、という理由でこうなったのだ。だがシリウスとカイキは何故だか合わないらしく、またユキヤもカイキやネオンと距離を置いていた。何にも考えてないようなイレイはかまわず話していたが、それにしたってきつい。
「誰がまとめるんだ……」
 ぼそりとアキセはつぶやいた。
 戦力バランスはともかく、統率力がまるでなかった。シリウスは親しげでないし、かといってアキセたちにまとめるだけの力は無い。
「シリウスさん、あとどのくらいかかりますか?」
 そんな彼の心中を知って知らでか、サホが穏やかな声でそう問いかけた。この状況では彼女は緩衝剤だ。誰の気分も害することなく、シリウスから情報を聞き出すことができる。
「あと十分程だ」
 肩越しに振り返ってシリウスが答えた。今は人の目を気にしてか髪の色を変えている。変装に近いが微妙に違うらしい。彼ぐらいのレベルになると、外見を変えるのはそれほど苦じゃないようだ。もっとも疲れるし、技の出が鈍くなるらしいが。
「十分かあ。サホちゃん、大丈夫?」
「はい、私は大丈夫ですよ」
 するとあけりが後ろを向いて小首を傾げてきた。サホが動き回れるようになったのはつい数日前のことだ。本当は無理をさせたくないところなのだが、人手が足りないので動員されてしまった。あけりも心配なのだろう。
「そう? ならいいんだけど」
 つぶやくように言うと、あけりはまた前を向いた。
 神界へ行き、まずは現状を聞く。全てはそれからだ。魔族がどのくらいの頻度でやってくるのか、どの辺りに多くいるのか少しでも情報が欲しかった。シリウスもあちこちの星を飛び回っていたせいで、詳しくはないそうだ。
「オレが頑張らなきゃいけないかな」
 アキセはぼやいた。これ以上サホに無理難題を押しつけるわけにはいかない。彼が頑張らなければ彼女にしわ寄せが行くだけだ。
 そうだ、サホのためだから頑張れオレ。
 虚しい励ましを自らにかけて、アキセは前を見据えた。
 人気のない路地の先には、教会の屋根が見え始めていた。行く末を暗示するように、ぼんやりと……。




「ここがネオン連合だ」
 レーナの言葉を聞きながらよつきは辺りを見回した。レーナ連合、イレイ連合と回って他の仲間を置いてきた彼らは、ようやく自分たちの担当区域へとやってきた。
 魔族が暴れているせいなのか、町中のはずなのに人の姿が全くなかった。小さな町とはいえ、何人かは見かけてもいいはずである。それなのに話し声も気配も、犬の鳴き声すらなかった。薄気味悪ささえ覚える。
「宇宙って、人が少ないんですか?」
 同じように思ったのだろう、後ろにいた陸がそう声を上げた。彼の隣にはすずりがいて、不安そうに彼の袖を掴んでいる。
「いいや、星によって規模は違うが地球よりは多い。だが魔族を恐れて皆閉じこもっているのだろう。奴らが表立って暴れている証拠だな」
 レーナは振り返ると苦笑しながら説明した。目立たないようにと羽織った麻の上着もこれでは意味がない。よつきも微苦笑しながら隣のジュリを一瞥する。
 顔色はあまりよくなかった。おそらくここ一ヶ月程で一番働いているのは彼女だ。治癒の技というのは相手の体調や気の流れを正確に読みとらなければうまくいかない、神経を使うものである。休む間もなく続けていれば具合も悪くなるだろう。正直よくもっているなと思う。
「で、具体的にはどうするんだ?」
 するとそれまで黙っていたアースが口を開いた。彼は最近何も言わずにつったっていることが多い。何か喋るとバランスやナチュラルの一部が震え上がるためだ、とよつきは推測している。問題発言さえしなければアースだって怒らないのだが、不機嫌な時の印象が強いのだろう。兄と同じ顔だからか陸はよく話しかけているが、コイカなどは見かけただけでも怯えている。
「色々考えたが、虱潰しでいこうと思う」
『虱潰し!?』
 レーナの返答に、皆は一同に声を上げた。
「表だって暴れているのなら探す手間が省ける。魔族の気を辿って転移する、そして叩く。これを繰り返していこうと思う」
 そう説明しながらレーナは微笑んだ。ネオン連合にどれだけの星があり、どれだけの魔族がいるかは知らない。だが気の遠くなるような話だ。
「ほ、本当にそれでいくんですか?」
 思わずよつきは尋ねた。一体いつまでかかるのか予想ができない。けれどもレーナは大仰にうなずき、人差し指を振る。
「われは嘘は言わない。戦闘を終息させればいいのだろう? 我々が虱潰しを行っていけば、奴らだって馬鹿じゃないんだ考え始める。不用意な戦闘は慎むようになるさ。それを五腹心の誰かが説得すればひとまず状況は落ち着く」
 なるほど、とよつきはうなずいた。戦力をかけずに事態を収束させる手ということだ。怪我人が治った頃にそれまで元気だった者がへばっていたのでは、話にならない。
「というわけだから早速向かうが、皆心の準備はいいか?」
 彼女の問いかけに対し、それ以上異論を唱える者はいなかった。それを確認して、彼女は満足そうに微笑んだ。

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