未来の魔法使いたちへ
プロローグ
「ひーっ!」
刹那、奥の方から悲鳴が聞こえた。それは男の人の高い声だった。続けて耳にしたくない何かを切り裂く音がして、つんと鼻につく臭いが漂ってくる。
私はその場に座り込んだ。悲鳴を、音を聞かないように必死に耳を押さえてうずくまった。それでも同時に鼻をつまむことはできないから臭いだけは消せなかった。むせかえるような血の臭いが、曲がった先の通路から漂ってくる。
誰かが殺された。そのことをかろうじて頭が理解した。耳を必死に押さえているのにひたりと、足音が近づいてくる気配がする。
明かりを消さなくちゃ。
そう思うのに上手く唇が動かなくて呪文が唱えられなかった。時間がたてば勝手に消えるけれど、今すぐ消すには呪文が必要だ。でも口さえ思うようにならない。
どんどん足音が近づいてくる。ゆっくりゆっくり、道を踏みしめるような足音が。
セペフルの言う通り、止めればよかった。
後悔してももう遅かった。恐怖でにじんだ涙が頬を伝っていくけれど、その場を逃げ出すこともできない。足音はゆっくりだから、走れば間に合うかもしれないのに。
私は固く目を閉じた。けれども瞼を通してさらに強い光が入ってきた。この薄暗い通路には似つかわしくないそれは、人工的なものではない。でも決して私の使った魔法の効果でもなかった。
「子ども」
声が、した。高めの男性の声とも、低い女性の声ともつかない中世的な声が頭の骨を通して直接響いた。
私はおそるおそる瞼を開けて、そして顔を上げた。
瞬きも息も何もかもが止まりそうになる。
「子ども」
そうつぶやいているのは、黄色い光に包まれた何かだった。