テキアの私室へとお茶を運んだその女性は、支度をし終えたテキアを見つめていた。黒い髪を整え上着を羽織った彼は、いつ見ても隙のない身のこなしをしている。申し分のない容姿に落ち着いた物腰。何故一人なのかと皆が噂するくらい、彼は洗練されていた。
だが最近、加えてさらに気になることがあった。そんなことをぼんやりと考えていた彼女は、見とれるままに思わずそれを口にする。
「テキア様は、一体どんな基準で護衛を選ばれたのですか?」
「はい?」
振り返ったテキアの不思議そうな顔に、思わず彼女ははっとした。何の気なしに尋ねてしまったが、普通は一介の使用人が口にすべきではないことだ。それ故慌てて謝ろうとすると、彼はそれを手で押しとどめたきた。彼女は瞳を瞬かせる。
「それはもちろん、技使いとしての能力ですが。何か疑問でもあるのですか?」
「あ、えーと、その……」
「気になることでも?」
「その……人間性はどうなのかと、少し気になったものですから」
テキアに優しく問いかけられると、本音は瞬く間にこぼれてしまう。恐縮した彼女は俯きながらそう口にした。すると頭上からは、彼の苦笑いが聞こえてくる。驚いた彼女は上目遣いで、おそるおそる彼を見上げた。
「テ、テキア様?」
「いえ、あなたがそう思うのも仕方のないことかもしれないと、そう思いましてね」
「す、すいません」
「いいんですよ。確かに、技使いには変わり者が多いですからね」
「そ、そうですよね」
笑うテキアに安心して、彼女は素直にそう答えてうなずいた。だが次の瞬間、彼自身も技使いだったことを彼女はすぐに思いだした。
ここは否定すべきところだったのではないか。頭の中が真っ白になり、彼女はおろおろと視線を彷徨わせた。今日の自分は失態ばかりだ。ファミィール家に仕える者としては、失格者の内に入るだろう。首を切られても仕方のないくらいに。
「あ、あのっ、テ、テキア様はそんなことございませんよ!」
「いいんですよ、正直に言って。私もその変わり者の一人ですからね。この年になって独り身なんですから」
それでもテキアは意に介した様子がなかった。本当に素晴らしい人だと、彼女は心底思う。こんな出来の悪い使用人も、笑って許してくれるのだ。そんな彼が独り身なのは、確かに大いなる謎の一つではあるけれど。
「お茶、ありがとうございます。ですがすいません、ゼジッテリカに会ってからいただきますね」
するとテキアはそう言って、足早に扉へと向かった。その彼の後ろ姿を見送って、彼女は小さくため息をついた。彼が口にするのは姪のことばかり。他の女性が出てきたことはほとんどなかった。最近では、その姪の直接護衛くらいだろうか。
「それどころではないんですかね」
寂しげにつぶやいてから、彼女は入れ立てのお茶を一瞥した。心を込めたそれも、彼が飲む頃には冷めていること確実だった。