「ああーっ、やっぱり服が決まらないっ!」
私は鏡の前で頭を抱え込んだ。こんな時、自分のセンスのなさ、服の少なさを恨みたくなる。
今日は人生初めてのデートなのだ。相手は顔の綺麗さと裏腹に中身エロおやじなあのひさぎ君。下手な服は選べない。
「これは……可愛さが足りない。これは……なんかセクハラされそう。ああー困ったっ!」
可愛らしいスカートって、何でこんなに短いんだろう。これじゃあまたひさぎ君の攻撃にあっちゃうよ。
私は部屋着のまま、鏡の前をうろうろする。
すると下からチャイムの鳴る音が聞こえてきた。
「ま、まさか」
何か、嫌な予感がした。下でお母さんが応対してるみたいだ。私は恐る恐る部屋のドアを開ける。
「しとねー! ひさぎ君よー!」
や、やっぱり! 何で家まで押し掛けてくるのよーっ!?
私は泣きそうだった。
お母さんにはこのお試し交際のことは既にばれている。でもお母さんの前では普通なひさぎ君は、かなり好印象なのだ。むしろ信頼されてる。
「ちょ、ちょっと待ってー。服決めたら行くからっ」
「あれ、しとねちゃん、服決まってないの? 俺が選んであげようか?」
って何でひさぎ君、もう入ってきてるの!?
私は慌てた。だってひさぎ君なら部屋までやってきかねない。というか嬉々としてやってくる気がする。
「ほら、しとね。ひさぎ君待たせちゃだめでしょー?」
「いいですよお義母さん。気にしないでください」
「そーお? あ、じゃあしとねの服選んでくれる? あの子センスないし」
お母さんー!?
む、娘のピンチを招くようなこと言わないでよーっ! ってひさぎ君、お邪魔しまーすとか言ってるし。
「しとねちゃん、こんにちはー」
部屋から顔をのぞかせていると、すぐにひさぎ君はやってきた。その輝かんばかりの笑顔が憎らしい。絶対、何か企んでる。
「そんな怖い顔しないでよー。服選ぶだけだからさ。中、入れて」
「……嫌だ」
「しとねちゃん」
ひさぎ君が柔らかく微笑む。ううー、やっぱりこれは反則だ。こんな顔されたら拒否できないよ。
「入れて、しとねちゃん。あ、ついでに着替えも見せてくれると嬉しいなあ」
「やっぱだめ! 拒否! ひさぎ君の馬鹿ー!」
私は思いっきりドアを閉めた。かすかにお母さんが何か叫ぶのが聞こえてくるけど、そんなのは知らない。
初デート、このままじゃ無理だよ。
ドアの外から降りかかる声を聞きながら、私は心底ため息をついた。