「ねえ、レーナ」
「ん?」
「アースが寂しそうだからかまってあげてよー」
火が灯された洞窟の中、突然上がったそのお願いに、当のアースは吹き出しそうになった。無邪気の瞳を輝かせたイレイは、懇願するようにレーナを見つめている。レーナはその長い髪を指に絡めて小首を傾げた。
「イレイ、お前な……」
やや長めの前髪をかき上げながら、アースは口を開いた。しかしそれ以上言葉は出てこなかった。レーナの花も飛ばんばかりの微笑みを見てしまっては、声などでなかった。
何か微笑ましく思っているには違いない。それがイレイの無邪気さにかはわからないが、やけに嬉しげだった。
強さに反した可愛らしさは、ある意味罪だ。
「レーナ」
「ん?」
「その……笑顔は止めろ」
深呼吸してから、アースは何とかその言葉だけを口に出した。言われたレーナはきょとんとした表情で、わけがわからないといった様子だ。アースは頭を抱えたかった。
「アース、われに笑顔を止めろというのは拷問なのだが?」
「拷問……」
拷問なのはこっちだ。
アースは胸中でそうつぶやく。洞窟の端と端、やや離れているのだけが幸いだった。彼は目を逸らして、できるだけ彼女が見えないようにする。
「じゃあこっちを見るな」
「だって寂しそうだからかまえと……」
「寂しくない、かまわなくていい。イレイの言葉を真に受けるな」
アースは一方的に言い放ち、今度は体ごとそっぽを向いた。
そんなことされたら、この身がもたない。彼は心底嘆息する。
視界の端で、レーナが複雑そうな笑みを浮かべるのがわかった。だが彼女は何も言わずに、日の暮れかけた空を仰いだ。隣にいたイレイが、不思議そうに首を動かしている。
「えー何、どうしたのさー。僕何か悪いこと言った? ねえねえ、アース」
おどおどするイレイの声は、ネオンたちが帰ってくるまで続いた。