white minds 第九章 半魔族‐2
 
 
 神技隊らがたたき起こされたのは明け方の四時を回ったところだった。響きわたったのは基地内放送といったものでなく、強烈な爆発音。
「何だ!?」
 次々と部屋を飛び出す神技隊。その頃モニタールームで番をしていたリンたちは、その現場を割り出していた。
「リシヤの森――! またあそこ……? まさか魔光弾たちと何か関係が!?」
 モニターには赤々と燃えるリシヤの森の姿が映っている。黒い煙が充満しており、一見しただけでは中の様子はわからない。
「何が起こったんですか!」
 そこへサイゾウが駆け込んできた。続いてぞろぞろと他のメンバーも集まってくる。
「リシヤの森で何か爆発が起きたみたいなんだ」
 答えたのは北斗だ。リンは今もコンピューターと格闘しながら、何とかして原因を突き止めようとしている。手伝っているのはアサキ。
「リシヤの森――――!? 魔光弾たちが何か!?」
 リンと同じ様なことをたくが叫んだ。皆の視線がモニターの方へと集まる。
「ダメでぇーす! リシヤの森の映像しか出ませぇーん! データ類は引き出せませぇーん!」
 そんな中でアサキが途方に暮れた様に音を上げた。
「このコンピューターではあそこのデータは分析できないわ。現場に行くしか確かめる方法はない」
 すると間髪入れずに梅花が口を挟む。今入ってきたばかりのようだ。
「上に無断で――――!?」
 ホシワが問うよりも早く梅花はモニタールームを飛び出す。
「まあ、いいってことじゃない?」
 気楽に笑ってダンはホシワの肩を軽く叩き、同じように走り出した。
「一人で勝手に判断して飛び出すところは青葉に似てるな」
 妙なところでシンは考え込む。しかしすぐにリンに引っ張られて追う羽目にはなるのだが。
 結局、神技隊は全員独断でリシヤの森へと急ぐことになった。



 真っ赤な炎に包まれながら、一本、また一本と木々が倒れていく。真っ黒な煙は森一帯を覆う。リシヤの森はその爆発によって豊かな緑を失いつつあった。
 一番最初にそこに到着したのは梅花だった。一人で勝手に飛び出したのだから当然のようにも思うが、神よりも、ビート軍団よりも早く、辿り着いたのである。
『上』はまだ動いていない……いや、動けないんだわ。許可が下りないから。
 とりあえず気配からそのことを察して梅花はそう考える。魔光弾たちのことはよくわからないが、この爆発自体に彼らが関わっている可能性もある。レーナは大方他の者の動向をうかがっているのだろう、とも彼女は思った。
「かなり……煙が充満してる……。このままじゃまずいわね」
 彼女はそう判断すると自分の体を覆うように結界を張った。割と補助系ではポピュラーな技で、水の中に潜る時なんかによく使う。だがポピュラーとはいっても長時間続けるにはかなりの精神力を要する。もちろんこれを使用したまま戦闘することはさらに難しい。もっとも、彼女にとっては苦ではなかったが。
 グオォォォォォォッ――――!
「何……?」
 不意に遠くから聞こえた声のようなものに、梅花は眉根を寄せた。
 叫び声? にしてはかなり低い。獣のうなり声にも似ている。
 彼女が周りの気配に集中すると、すぐに他の神技隊が追いついてくる。
「おい、梅……ゲホッ、ガホッ。すっげーけむ……ガホッ」
 彼女の姿を見つけて声をかけようとしたダンは、思いっきり煙を吸い込んで咳き込んだ。
「この煙、あまり吸わない方がいいです。結界を張ってください」
 梅花がそう忠告するとダンは素直にそれに従った。後ろで聞いていた他のメンバーも結界を張る。
「爆発の中心はどこだ?」
 キョロキョロしながらラフトが問う。
「たぶん、もっと北の方です」
 梅花は先ほど声のした方角を指さした。
「さっき、何かうなり声の様なものを聞きました。それに、ここから北へ真っ直ぐ進めば魔光弾たちが封印されていた場所に着きます」
 彼女の言葉に皆の視線は自然と北の方へ向く。やはりこの爆発は魔光弾たちが起こしたのだろうか?
「とにかく北へ進みましょう」
 促したのはレンカだった。彼女はそう言うと先頭に立って歩き出す。
「あ、待ってよ、レンカ!」
 慌てて小走りで追うミツバ。残りのメンバーも彼女の後を追う。
「このままじゃあ、この森はおしまいね……」
 歩きながら寂しそうにレンカはつぶやいた。この森は彼女の故郷でもあった。
 グゥォォォォォォォ――――!
 再び、あの叫び声が聞こえた。先ほどよりもずっと大きい。どんどん近づいている。
『危ない――――!』
 唐突にレンカと梅花は叫んだ。ほぼ同時に。彼女らの警告から数秒とたたないうちに、彼らの体は白い光に包まれた。そして吹き飛ばされる。
 二度目の爆発。
 グゥォォォォォ――――――!
 その爆発の中心にいたのは一人の男だった。癖のある黒髪に黒い甲冑。背も高くスラッとした印象の美男子。だがその表情が、彼のイメージをくつがえしている。
 獣。いや、そんな言葉では表せない。その表情は狂気じみている。
「な、何なんだ……?」
 上半身を起こして滝はつぶやいた。結界を張っていたおかげで大したダメージはない。彼に続いて他のメンバーも何人かずつ起きあがっている。
 どうやらその男にまともな言葉を喋る気はないようだった。それとも話せないのか? どちらにしろ名乗ってはくれないようである。
「もしかしてこの人が三男……?」
 気づきの早いレンカが思い出してつぶやく。目の前の男は魔光弾たちとは様子が全く違う。でもどこか似ているとも言えた。何かとははっきりは言い切れないが、強いて言うなら『気』の性質。そしてそう思わせる重要なポイントはこの場所。そもそも、兄弟と言われているのに魔光弾と魔獣弾はかなり印象が違った。だから三男の印象がまた別のものだったとしてもおかしくはない。まあこれは違いすぎのような気もするが……。
 その男はただうなり声を上げるだけで、神技隊のことは見向きもしなかった。無視していると言うよりはただ気がついていないだけの様にも思える。
「こいつ……一体何者なんだ?」
 いぶかしげな顔でサツバはその男を見つめる。と、そこに二つの影が降り立った。
魔神弾まじんだん! 魔神弾ではないか! お前も封印が解けたのか!」
「思っていたよりも早かったですね。調子はどうですか、魔神弾?」
 魔光弾と魔獣弾だ。彼らの話しぶりではやはりその男は『三男』のようである。しかし兄に話しかけられたにもかかわらず、魔神弾は何の反応も示さない。ただ小さくうめいているだけである。
「魔神弾。聞こえているのですか? 何か返事をしたらどうです?」
 魔獣弾は目つきを険しくしてそう言った。それでも魔神弾は口を開かない。
「兄上、魔神弾の様子がおかしいです。お心当たりは?」
 しびれを切らして魔獣弾は兄に尋ねた。だが魔光弾も首を横に振るばかり。
 するとそこへ、軽い足音を立てて一人の男が空から降り立った。無造作に流した肩ほどの髪。およそ戦闘向きではない服装の男。
『ラウジング!』
 神技隊の声が重なる。やって来たのはラウジングだった。彼は神技隊が全員無事なのを確かめると、魔光弾たちの方を振り向く。
「まさかこんなに急に魔神弾が復活するとは思わなかった。加えていきなりこんな攻撃を仕掛けるとは」
 ラウジングの声は意外にも冷静だった。しかしそれは嵐の前の静けさを連想させるようなものでもある。神技隊は行く末を案じてごくりと唾を飲む。
「そうですか、奇遇ですね。私たちにも予想外でしたよ。だからあなた方、神が気づかないのも当然です」
 魔獣弾は冷笑を浮かべながら言い放った。魔光弾はどこか非難するような目でそんな弟を見つめる。

 

 
 
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