white minds 第一部 ―邂逅到達―

第五章「打ち崩された平穏」7

「これだから青い!」
 魔獣弾は再び黒い鞭を生み出す。のたうつようにして近づいてきたそれを、ラウジングは跳躍してかわした。彼の手の中に刃が生まれる。薄青に輝くそれは今まで見た不定の刃より小振りだが、おそらく精神系の技だろう。走り出したラウジングを牽制するよう、黒い鞭がまた跳ねた。
 レーナが額を押さえたのが、青葉の視界に入った。頭が痛いとでも言わんげな仕草だ。青葉も気持ちは似たようなものだった。一体誰が誰の敵なのか定かではないが、これだけは断言できる。こんなわけのわからない状況からは一刻も早く抜け出すべきだ。
「……シンにい」
「ああ、一応目的は成功したからな。梅花と合流してどうにかオレたちも脱出したいんだが」
 答えるシンの声に苦いものが含まれている。考えることは皆一緒か。そうしたいのはやまやまなのだが、位置取りが悪い。梅花と彼らの間にはレーナがいる。つまり魔獣弾もラウジングも常にそちらを警戒している。この状況で魔獣弾に気取られぬよう移動するのは難しかった。下手に動いて攻撃に出るつもりだと認識されたら厄介だ。
 顔をしかめた青葉は、ちらと梅花へ視線を送ってみた。何か悩んでいるのか彼女も難しそうな顔をしている。さすがにぱっと名案が浮かんだりはしないらしい。魔獣弾の挑発を耳にしながら青葉が唸っていると、突然、彼女は弾かれたように振り返った。
「おいレーナ!」
 ついで響いたのは、この場ではあまり聞きたくない自分とよく似た叫び声。青葉は思わず眉間に皺を寄せた。声がしたのはレーナの後方からだ。梅花が振り向いたのはその気配を感じたからだろう。青葉が小さく舌打ちすると、茂みを掻き分ける音が鼓膜を揺らす。
「一人で行くなと言っているだろっ」
 揺れる緑を荒々しく踏みつけるようにして、アースが姿を現す。形相はいつも以上に険しい。続いて息を切らしたカイキがよろよろと追ってきた。精神を集中させてみると、二人のさらに向こう側にネオンとイレイの気があるのもわかる。アースの言葉から推測するに、途中まではレーナと一緒だったのだろう。青葉はまたシンと顔を見合わせた。ますます動きにくくなってしまった。
「すまない。走ったら間に合わなさそうだったので」
「おやおや、またお客さんのようですよ」
 乱入者たちの存在に、魔獣弾も気づいたらしい。鞭を大きく振るいラウジングの接近を阻むと、楽しげに笑い出している。――いや、笑おうとして、不意に訝しげに首を捻った。緩く波打つ黒髪が場違いなほど軽やかに、空気を含んで揺れる。
「あなたたち、どこかで……」
 忽然と黒い鞭が消える。一度魔獣弾と距離をとったラウジングは、何故か青葉たちの目の前まで後退してきた。薄青の刃が消し去られると、森の中を奇妙な静寂が包み込む。それぞれがそれぞれの動きに注意を払いながら、その場に立ち尽くしていた。
「おいレーナ。何だよこいつ」
 容易に発言できぬ空気の中、カイキが呑気な疑問を放つ。彼が指さした先にいるのは魔獣弾だ。それでも魔獣弾は気分を害した様子もなく、ただじっと何かを見定めるがごとくアースとカイキを凝視している。居心地の悪くなるような眼差しだ。青葉の方が段々不安になってくる。
「ああ、彼は魔獣弾といって――」
「思い出しました!」
 説明しようとするレーナの言葉を、魔獣弾の叫びが遮った。見開かれた黒い瞳に宿ったものは、青葉には読み取れない。
「どこかで見たと思ったんです! あなたたちは、腐れ魔族の申し子ですね!」
 答えに辿り着いた喜びと、何か別の暗鬱とした感情が、魔獣弾から溢れ出す。ひどく濁った気だ。同時に吐き出されたのは耳馴染みのない言葉だった。首を傾げた青葉は、ラウジングの後ろ姿へと一瞥をくれる。ラウジングなら何か知っているのではと思ったのだが、彼の気には依然として疑問が満ちていた。少なくとも上の常識の中には入っていないようだ。
「はぁ? 腐れ魔族ぅ?」
 カイキは訝しげな声を漏らしたが、その向こうにいるレーナの表情は硬かった。彼女がそんな顔をしているところを初めて見るような気がする。それが正解を意味しているような気がして、青葉は固唾を呑んだ。それでは「腐れ魔族」とは一体何なのか。
「そうですか、ようやく理解できました。道理で神ではないのに私たちについて詳しいわけです。生きていたのですね」
 一人で納得した魔獣弾は、深々と相槌を打つ。説明をしてくれるような親切心はないらしい。戸惑った顔のカイキは、答えを求めるようにレーナの方を振り向いた。ほぼ同じタイミングで、アースもレーナを見ていた。どことなく違和感を覚える三人の様子に、青葉は顔をしかめる。これは何なのだろう。彼らが何者なのか、まさか彼ら自身もわかっていないのか?
「――申し子たちは潰す方針だと、プレイン様は仰っていたのに」
 と、魔獣弾の眼差しが鋭くなった。気にも得体の知れない毒々しい感情が滲む。それをラウジングも察知したのか、背中が強ばったのが見て取れた。肩にも不必要に力が入っている。青葉が思わず声を掛けようとすると、その気に怨嗟の色が混じり始めた。
「腐れ……魔族、よくわからないが魔族には違いない」
 かすれ気味だったラウジングの囁きも、青葉の耳には届いた。抑揚が乏しいのに、とにかく冷たい。肌が粟立つような薄暗さに浸食されそうな心地になる。
 強い感情を宿した気の影響力は強い。そのことを青葉は咄嗟に思い出した。普段はそんなことを実感などしないのだが。
「ならば遠慮はいりませんね。全力で潰すのみです!」
 再び魔獣弾が動いた。空へと掲げた右の手から、頭上に向けて多数の黒い針が飛び出す。目で捉えられるような数ではない。嫌な予感がした。
「ラウジングさんっ」
 警告の声は意味があったのか。瞬く間に空へ上っていった針は、あるところまで達すると放射状に広がりながら落下してくる。誰に狙いを定めるわけでもなく降り注ぐ黒い針。青葉は慌てて結界を張った。
 かろうじて生み出された薄い膜が、黒い針を弾いた。それでも範囲が狭かった。頭は守られたが、掲げた腕を数本の針がかすめたらしい。焼け付くような痛みに顔が歪んだ。まるで炎でも浴びたようだ。
 針の雨が止んだと思ったのも束の間。今度はごうっと風の唸る声が鼓膜を揺らす。勘でその場に膝をついた青葉の上を、何かが通り過ぎていった。その正体を確かめる余裕などない。状況が把握できないまま、彼はどうにか結界を身に纏わせた。ばちりと爆ぜるような音がして、視界の端で黒い筋が踊る。
「鞭かっ」
 先ほど頭上を通り過ぎたのもそれか。後退しつつ視線を巡らせると、黒い鞭の根本をちょうどレーナが叩き切ったところだった。肉薄しようとするレーナから、魔獣弾は距離をとろうとしている。
 梅花はどこにいるのか? 痛みを堪えて視線を彷徨わせると、彼女の姿はすぐに見つかった。先ほどと変わらぬ位置で結界を張っている。予想外だったのは、その隣に何故かアースがいることだ。二人の後ろには、知らぬ間に合流していたネオンとイレイの姿もある。カイキはその横で片膝をついていた。
「どういうことだよ」
 立ち上がりながら青葉は舌打ちする。魔獣弾の攻撃はどうやら無差別のようだ。黒い鞭でラウジングの接近を阻びつつ、また黒い針を無数放つ。青葉は重だるい腕をどうにか空へ伸ばし、もう一度結界を生み出した。今度は間に合った。振ってくる針を全て透明な膜が弾く。しかし先ほどかすったところがまたじわりと痛んだ。嫌な兆候だ。
 ちらりと横を見遣ると、シンも同じ状況らしい。自分の身を守ることで精一杯といった様子だ。このままでは誰もが巻き添えになる。ラウジングでさえも、魔獣弾には太刀打ちできていないようだ。しかしだからといって、ここでレーナたちの活躍に期待するのは何か間違っているだろう。きっと梅花のことだけは守ってくれると思うが。
「どうしたらいいんだよ」
 ぼやきが口の中に広がった。こんなことになるなど聞いていない。想定外だ。そこまで考えたところで、亜空間での出来事がふと脳裏をよぎった。あの時もそう思った。もしこうなるとわかって送り込んだのだとしたら、上といえども容赦はしたくない。
 焦燥感に胸を焼かれていると、視界の端から何者かの姿が消えた。はっとして瞳を瞬かせると、今度は前方から魔獣弾の声が上がる。慌てて青葉は視線を転じた。
 レーナが、瞬時に魔獣弾の前へ移動していた。慌てて後退ろうとする魔獣弾に向かって、彼女は右手を振るう。その動きに合わせて白い煌めきが軌跡を残した。空へ放たれようとしていた黒い針は、彼女の白い刃によって斬り捨てられる。
「小娘がっ!」
 踏み込もうとするレーナから、どうにか飛び退ろうとする魔獣弾。振り下ろされた刃の切っ先が、魔獣弾の上衣を裂いた。届くはずの距離ではなかった。魔獣弾もそう読んだようだ。しかしそれでも不定の刃は魔獣弾を捉える。
 ――刃が伸びたせいだ。
 魔獣弾の乾いた叫声が森の空気を揺らす。これは彼女の得意技なのだろう。青葉はそう考える。突然間合いも何もかもが変化するような剣で戦うのは、仕掛ける側も苦労するはずだが。彼女の場合はそれも苦にならないらしい。
 舌打ちした魔獣弾の左手が動く。その指先から小さな黒い球が複数、同時に放たれた。さらに接近しようとしているレーナを引き離すためか? しかし彼女は何の躊躇いもなくそのまま突き進んだ。目の前に迫った一部は白い刃で叩き落とし、残りの一部がかすめるのもかまわず強く地を蹴る。
 くぐもった悲鳴が上がった。刃は、魔獣弾の肩を貫通した。顔を歪めた魔獣弾は、肩を押さえながらふらふらと後ろへ下がる。しかし追撃するかと思われたレーナは、地に降りた勢いを殺しきれず片膝をつき――そしてそのまま座り込んだ。白い刃も消える。
「え?」
 青葉は思わず気の抜けた声を漏らした。何が起こったのかわからない。魔獣弾は相変わらず苦渋の表情でふらついていて、何か仕掛けた様子はない。二人の他には、誰も動こうとする者はいなかった。皆呆然とその場に立ち尽くしている。
「レーナ!」
 いち早く反応したのはアースだった。何かを察したらしく、若干顔が青ざめている。何だか見覚えのある状況だ。やはり亜空間でのことだっただろうか。
 アースの声はレーナにも届いたようだ。彼女は口元を押さえつつよろよろ立ち上がる。足下は覚束ないが、再び倒れるほどではない。彼女はあいている方の手をひらりと振った。「大丈夫」とでも言いたいのか。
「申し子の分際で……! 本当に、あの腐れ魔族は、厄介なものを生み出してくれたものですねっ」
 突然、魔獣弾は激昂した。不満と憎悪と蔑みの混じり合った気がぶわりと膨らむ。横目で確認すれば、肩を押さえた魔獣弾は唇を振るわせ、まなじりをつり上げていた。その双眸には警戒の光も宿っている。いや、恐れも含まれているか?
「いいでしょう。ここは、おとなしく引いてあげます。どうせ放っておいてもこの結界は終わりです」
 周囲へ視線を走らせた魔獣弾は、駆け出そうとしたラウジングへと嘲笑を向けた。そして、躊躇せず踵を返した。波打つ黒髪が揺れたと思った途端、その姿が虚空に消える。青葉は目を瞬かせた。まただ。レーナが移動した時と同じだった。まるでそれまで存在していなかったかのように消え失せている。おそらく、別の場所に移動したのだろう。
「逃げたかっ!?」
 数歩進んだところで立ち止まったラウジングは、大きく舌打ちした。手遅れなのは彼も理解しているのだろう。思い切り土を蹴り上げている。
 青葉は違和感のある腕をさすりつつ辺りを見回した。すぐ傍にいるシンは、困惑顔で服の土を払っている。怪我はなさそうだ。先ほどと変わらぬ位置にいた梅花の隣では、イレイたちがおろおろしていた。さすがにこの事態にはついていけていないらしい。自分たちだけではないと安堵するのも変な話だが、苛立ちは少しだけ和らぐ。
 肩を落とした青葉は、もう一度レーナの方へ視線をやった。駆け寄ったアースがふらついた彼女を支えている。声も掛けたようだが、青葉の耳では内容までは把握できない。またひらりと振られた彼女の手のひらが、一部赤く染まっているのが見えた。
「お前はどうしてまたそうやって無茶をする!」
 続く怒声ははっきりと聞き取れた。これも覚えのあるやりとりのような気がする。何故だか胃の底が重くなり、青葉は唇を引き結んだ。この居たたまれなさは何なのだろう。
「いや、ここで破壊系を連発されるとまずいのでな。急がざるを得なかった」
 アースの叱責にも動じず、レーナはへらりと笑っているようだ。彼女のおかげで魔獣弾は去ったことになるので、ここは感謝すべきところなのかもしれないが。しかしラウジングはそうは思わないだろう。青葉は横目でラウジングの様子をうかがう。土を強く踏みつけたラウジングの拳は、固く握られていた。
「そんなに怒らないでくれ」
 レーナの言葉が途切れると同時に、ラウジングが顔を上げた。彼は彼女たちの方へ双眸を向けると、意を決したように、そちらへ真っ直ぐ近づいていく。不穏を感じさせる靴音が森に反響した。
「それ以上来るな」
 無論、それを簡単に許すアースではない。ラウジングへ向けて伸ばされた手の中に、炎の刃が生まれる。揺らぐような不定の刃の向こうで、黒い瞳が剣呑な光を宿していた。ただ牽制しているだけではない。いつでも本気で仕掛けられると、気も訴えている。
「お前たちは魔族なのか?」
 忠告通り立ち止まったラウジングは、静かに問いかけた。青葉には、怒号したいのを押し殺しているように聞こえた。じわりと背中に汗が滲む。もしラウジングがここで戦闘を始めたらどうすればいいのか? その場合は一旦待避した方がいいのか? 重だるさの増す肩を青葉はさすった。
「だから、魔族じゃないって何度も言ってるだろう」
「じゃあ一体何者だと言うんだ?」
「レーナ、もう答えなくていい。戻るぞ」
 さらに詰問するラウジングを、アースはねめつけた。レーナの肩をそのまま抱き寄せるようにして、ラウジングから遠ざけている。彼女の顔色が悪いことは、青葉の目にも明らかだった。アースとしては一刻も早くこの場を抜け出したいところなのだろう。その気持ちをこちらが酌んでやる必要はないのだが、利害は一致しているように思える。
「――ラウジングさん、ここでさらに戦闘するのはまずいです。結界に響きます」
 じりっとラウジングの気が膨らんだところで、場を制する声が放たれた。梅花だ。「結界」という彼女の言葉に、ラウジングも冷静さを取り戻したようだった。そうだ、自分たちが何のためにここへ来たのか思い出さなければならない。結界の修復が目的であるのに、自分たちで悪影響を与えているようでは意味がなかった。
「……そうだな」
 吐き出そうとした何かを、ラウジングは飲み込んだらしかった。肩をすくめて振り返ると、青葉たちの方は一顧だにせずそのまま歩き出す。青葉はシンと顔を見合わせた。神技隊は無視してそのまま去るつもりか?
「行くぞ」
 アースたちも動き出した。炎の刃が消えると、イレイの「はーい」という場違いに明るい返事が森の中にこだまする。了解も得ずにレーナを抱き上げたアースは、ちらりと梅花を見遣ったようだった。いや、イレイたちを見たのか。青葉からでは判別できない。
「じゃあねー」
 去っていくアースたちを、梅花は見守っていた。何か思案している横顔だった。だが足音が遠ざかったところで、嘆息しながらこちらへ目を向けてくる。疲れの滲んだ顔つきだ。彼女は一度足下を確認してから、やおら近づいてきた。
「――梅花」
「これからどうしましょう。リン先輩たちはもう森を出たみたいですけど。たぶん、レンカ先輩が倒れたままだし」
 小走りで近寄ってきた梅花は小首を傾げた。その事実を忘れかけていた青葉は、何故自分たちだけがここに来たのかを思い出す。そうだ。その件で確かカルマラが誰かに報告しに行っていたのだった。青葉は慌てて周囲を確認しながら、気を探ってみる。だがやはりここからでは遠方の気は感じ取れない。ラウジングの姿もいつの間にか見えなくなっていた。相も変わらず頼りにならない上の者だ。青葉が唸っていると、シンが「え?」と疑問の声を漏らす。
「レンカ先輩が倒れた?」
「あ、シンにいたちにはまだ伝えてなかったっけ。ストロング先輩たちのところで、急に結界が修復されて。その時にレンカ先輩が倒れて」
「そうだったのか」
 カルマラはもう戻って来ているのだろうか? 何にしろ、状況を把握しなければすれ違いになる可能性がある。そう思って梅花へ視線を送ると、彼女は小さく頷いた。
「まずは宮殿に戻りましょう。行き違いになったら困るし。そもそもここからストロング先輩たちのところに真っ直ぐ辿り着くとも限らないし」
 そう指摘されると、ますます森を出るのが正しく思えてくる。首を縦に振った青葉は、また腕に違和感を覚えて眉根を寄せた。右腕がかすかに、左は肩の付け根に近い辺りがちくりと痛む。動かせないほどではないが、嫌な感じだ。
「……怪我?」
 目聡い梅花はすぐに気づいたらしい。顔をしかめた彼女は、躊躇いなく腕に触れてくる。青葉は息を呑んだ。服越しに感じる彼女の指先の感触が、妙に意識される。
「見た感じの傷はなさそうだけど。さっきの黒い針みたいなの?」
「あ、ああ」
「レーナが破壊系とか言っていた技ね」
 彼女は眉をひそめて考え込んだ。「破壊系」という響きには聞き覚えがなかった。少なくとも普通の技使いが使っている技の系統ではない。どんな効果があるかはわからないが、レーナの発言を思えば楽観視はできない。名称そのものも物騒だ。
「後でジュリに見てもらった方がいいかもしれないわね。カルマラさんたちは……まあ知っていても教えてくれるような状況にはないかもしれないし」
 同感だった。上の者たちはおそらく魔獣弾のことで頭がいっぱいになっていることだろう。神技隊のことまで気を回してくれる余裕があるとは思えない。こちらはこちらで何とかしなければ。
 肩を回した青葉は、嘆息しながら空を見上げた。重たげな雲は先ほどと変わらず、ただ鬱々と空を覆い続けていた。

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