white minds

第十六章 神‐2

「ラウジング」
 聞き慣れた声に呼び止められて、彼は振り向いた。通り過ぎる他の神たちが一礼して去っていく。広いとはいえ廊下で立ち止まることは気にはなるが、幸いもう誰も来る気配はない。
「何でしょう、アルティード殿」
 彼は尋ねた。ゆっくりとした足取りでアルティードが向かってくる。そしてすぐ側まで来ると、彼は気の毒そうな表情でこう問いかけた。
「お前は下へは行かなかったのか。カルマラたちはたいそう楽しそうにしていたが。やはり彼女に会うのは気まずいか?」
 少し驚いて、ラウジングは目の前の人物を見た。まさかそのようなことを聞かれるとは思わなかったから。
 アルティード殿に気を遣わせてしまっている……?
 ラウジングははにかむように微笑む。
「いえ、そんなことは。ただ調べたいことがありまして。それにしてもあのがらくた処分のためだけにずいぶんと人数をかけましたね。何か他に意図でも?」
 聞かれたアルティードは大きく笑った。彼の笑い声を聞くのは久しぶりだ、とラウジングは思う。ここ何ヶ月はもとより、数十年、緊迫した空気がこの世界を覆っている。彼はいつも厳しい顔をしていた。
「まさかな。単に彼らが望んだだけだ。どうやらみんな揃ってあそこがお気に入りらしい。ここしばらく緊張した状態が続いていたからな、まあ、ちょっとしたご褒美というわけだ。丁度いい精神補給だな」
 そう答えるアルティードにラウジングは気のない声をもらす。
 確かにここよりは人間たちの中にいる方が刺激があって面白い。神技隊に限れば、フレンドリーさも加わって、一緒にいても疎外感、違和感を感じずに楽しくいられる。自分たちにとってこれほどよい条件はないだろう。神は自らの正の感情――楽しいとか嬉しいとか面白いとかいったものによって、精神を回復させる。精神回復は長期戦においては特に重要だ。が……
「しかしまさかシリウス殿まで行かれるとは思いませんでしたよ。どちらかと言えば心の神的傾向がありますから。下手な馴れ合いは好きじゃないとも言ってましたし」
 ラウジングにはそれが解せなかった。カルマラたちが行きたがるのはよくわかる。元々人間と交流するのが好きだし、いつでも面白いことを探しているのだから。だがシリウスは違う。彼は人間と親身になるのを拒むどころか、神とさえ友好を深めようとはしない。それは他人の感情に敏感すぎるのが原因らしい。昔はいたという心の神――感情を読むことに長けており、大量の精神を持つ神――が皆死んでからは、彼は数少ない心の神的傾向を持つ者として孤立していた節があるし、彼もまたそれを望んでいた。自分の苦労が理解されないのならば、かかわらない方がいいという考えらしい。そしてそういう彼にとって、自分たちは希少な、友好的つきあいのある神であったはずだった。
「ああ、シリウスか。どうやらあいつ、相当彼女――レーナがお気に入りのようだ。おそらく似たもの同士なのだろうな。それに、あいつ曰く、彼女はどうやら無意識にか意識的にか常に『愛情』の気を発しているらしい。とても心地がいいそうだ」
 アルティードはそう言って笑った。彼でさえも、シリウスのそんな言葉を聞くのは初めてのはずだ。
「あいつにもずいぶん迷惑をかけていたからな。しばらくは好きにさせておくつもりだ。と言っても、いざというときは働くのだろうが」
 目を細めてアルティードはラウジングを見た。そのいたわるような瞳を見て、ラウジングはハッとする。
 アルティード殿は皆を案じている。それも今まで以上に。
 ラウジングにはそう感じられた。
「ではな、ラウジング。お前も張りつめすぎるといけないぞ。少しは休め」
 アルティードはそう言うと、ラウジングの横を通り過ぎて歩いていった。白い廊下にとけ込むように、彼の背中が小さくなっていく。ラウジングはただ黙ってそれを見送った。
「さて、続きを調べるとするか」
 そして彼もゆっくりと廊下を歩いていった。



 食事を終えた滝たちは修行室に向かった。遅れて起きてきた人には、食べ終わったらすぐ来るようにと伝えてある。中にはやってこない者もいるかもしれないが。
 確かに強くならなければいけない。そうしなければ、今後の戦いで生き残ってはいけないだろう。でも、誰が戦うことを強制できるだろうか? 誰が命をかけることを強いられるだろうか? それがたとえ『上』でも。
 とは言っても、レーナの話からすれば、そのうちこの星が戦場になることはわかっている。ここで戦いを避けたとしても、ただほんの少しだけ命が長らえるだけであるかもしれない。でもそれでも、やはり戦闘などしたくはないと思う人もいるだろう。
 オレは……どれだけ少なかろうと生き残る可能性を無駄にはしたくない。これからここで恐ろしいことが起こるのだと知っているから、何もせずにのほほんとは暮らしていけない。
「……滝? どうかしたの?」
 何の前触れもなく立ち止まった滝を、レンカは振り返った。はっとして彼は首を振る。
「あ、いや、何でもない。考え事してただけだ」
「滝ーそんなとこで止まんないでよ」
 すると彼の後ろからひょろひょろとした非難の声が上がった。後ろを振り返ると、ミツバが鼻を押さえてふくれっ面をしている。気がつかなかったがぶつかったらしい。
「もう、入り口の前でー。入るならはいってよ」
「悪い悪い」
 滝はバツの悪そうに笑いながら修行室のドアを開けた。
 ある意味ではそこは異様な空間であった。
 ただ真っ白な世界に、数人程の人間――その他も含む――が中央よりもやや右に集まっている。こうやって客観的に見ると、変わった服装という要素も加わって、ますます普通じゃない。
 ……今さら気にすることでもないが。
 滝たちはその集団の方へ向かった。
「で、結局はいくつなわけ?」
 リンは腰に手を当てて、不満そうな表情でそう言った。走って駆けつけたわりには、さもずっとここにいました、といった様子のシンが、まあまあと彼女の肩を軽く叩く。
「だから……何と何とか、そういう明確な区別ができないものもあると言っているだろう。系統での呼び名自体、便宜上作られたようなものだ」
「それはわかったから。だから、大体でいいのよ大体で」
 リンがシリウスに何か聞こうとしているのは、滝たちにもわかった。聞くと言うよりは言い争いのようにも見えるが。
「何の話?」
 リンが黙ったのを見計らって、レンカが尋ねた。
「炎系とか水系とか、そういう技の系統ってどれくらいあるのかってリン先輩が聞いたんです。でも、明らかにだるそうで面倒くさそうなシリウスさんの態度が気に障っちゃったみたいで」
 梅花はそう言って肩をすぼめた。
 まあ、何となくはわかるわね……。
 レンカは胸中思う。
「なあ、シリウス、その話、オレたちも聞きたいし、何系があるのか具体的に言ってくれないか?」
 滝はできるだけにこやかにそう頼んだ。ちらりと彼の方を見て、シリウスはけだるそうに息を吐く。
「シリウス様! 私も聞きたい」
「シリウス様ー!」
 梅花の隣に座り込んでいたカルマラやカシュリーダがきゃーきゃー騒いだ。輪の後ろの方で中をのぞいているアキセが眉をひそめる。
「私はそういうことを詳しく説明するのは苦手なんだが……あいつもいないしな」
 そう言ってシリウスは入り口の方を見やった。また何人かの神技隊がパタパタと走ってくる。彼はそれらの人が集団に加わるのを確認すると、話を始めた。
「まずは基本。炎、水、土、風、雷、補助。この六つ。我々の間ではこれら基本をまんべんなく使える者を『普通系』と呼んでいる。何のひねりもないな。この系統ならお前たちもよく知っているだろう。その他には、まず精神系がある。これも見たことはあるからわかるとは思うが、要するに、精神そのものにダメージを与えるものだ。対魔族にはよく使われる。そしてその精神系とセットで語られるのが破壊系だ。人間にはわかりにくいかもしれないが、存在そのものにダメージを与える技だ。こういった技をくらうと自然には治らない。相当高度な治癒を受けなければ回復ができない。で、何故この二つがセットなのかというと、強い技であればある程どちらと区別できないものが多いからだ。つまり、精神にも存在にもダメージを与える技。これら八つ以外の特徴を持つ技は、一般には特殊系と呼ばれている。今のところ確認されているのは、封印能力、召還能力、武器能力の三つぐらいだな。一応、こういった分け方をしているが、時々どれとも言えないような変わった技も出てくる。大抵は補助系か特殊系の一つと見なされるが。ま、こんなもんだ」
 へえー、と一同はうなずいた。さすがシリウス様、と言ってカシュリーダは頬を赤らめる。
「シーさん、オレ、武器能力ってのは初耳なんですけれど、どんな能力なんですか?」
 すると妹の態度に憮然としつつも、ミケルダがシリウスにそう問いかけた。神技隊にしても、名前だけではあまり想像できないので、そうしてくれるとありがたい。
「……私も実際には見たことがないが。無の状態から様々な特徴を持った特殊な武器を生み出す能力のことだ。維持するのにも精神を使うのが難点だが、他人に使わせることもできるらしい」
 やっぱ物知り、違うなー、とミケルダは心底尊敬した。『神の常識』というのがどれくらいのものなのかは知らないが、神技隊も感心する。
「そう言えばシーさん、あのレーナと知り合いだとか聞いたんだけど……いつどこで会ったんですか? 他の人は全然知らなかったんでしょ?」
 ふと思い出したのだろう。そこでミケルダは尋ねた。神技隊は、え? と言うような顔でシリウスを見る。
「今から……一億年は前の話だな。その頃カイキ連合の中心だった星で、魔族が大がかりな作戦を展開しようとしていた。その阻止のために私が潜り込んでいたところに、あいつが来たんだ。利用したんだかされたんだか……。あいつ、こちらの正体に気づきながらも、何食わぬ顔で一ヶ月程過ごしていたからな。全くとんでもない奴だ。今の数倍は強かった。しかしそれ以来、その辺の人間界ではずいぶん有名になってしまったようだが」
 シリウスは適当にかいつまんで話した。
「一ヶ月程過ごしたって……何してたんですか?」
「あいつか? 人間の護衛だ」
 ミケルダはまだ不思議そうな顔をしていた。神技隊はと言うと、あまりに途方もない数字が飛び出したことに、ひどく驚いていた。
 い、一億年……。それだけ生きるってどんな感じだろう? ……退屈になるのもわかる気がする……。
 神技隊が黙っていると、その気持ちを察してシリウスは言葉を探した。
 こういうとき、何を言えばいいのか……、どう言えばいいのか……言葉が見つからない。あいつなら、できるだろうか?
 彼が困って顔を背けると、噂の人物がやってくる姿を、彼の目はとらえた。
「修行の手伝いってのはどうした? われにはどうも雑談してるようにしか見えないのだが」
 レーナは近づきながらそう言って、大きくため息をついた。今度は正式にに、護衛の四人もついてきている。遠くにいる三人を置いて、イレイがにこにこ笑顔でパタパタと彼女の元に駆けよった。
「仕事があったんじゃないのか?」
 シリウスは、先ほどまでの困り顔はどこへいったやら、皮肉混じりの笑みで彼女を見下ろす。
「終わった」
 対するレーナは素っ気なく言った。そして彼女はそこにいる神技隊メンバーを一瞥する。
 滝、ダン、ミツバ、レンカ、シン、北斗、リン、青葉、アサキ、梅花、よつき、コブシ、ジュリ、アキセ、サホ。
「これだけいれば十分だな」
「何が?」
「修行。当たり前だろ」
 レーナはあきれた顔でシリウスを見上げた。
「われはさっさと指針を示して休みたいんだ。一体いつあいつらが動き始めるかわからないからな。時というのは、進まないときはちっとも進まないくせに、動くときはあっという間にやってくる」
 レーナは伏し目がちにそう言って腕を組んだ。神技隊は、何となくその様子を眺める。
「しかしさー。修行っていったってこいつら技の基本とかはもう完璧だぜ。これ以上強くするのって、難しいんじゃない? どうする気?」
 そこでミケルダが疑問を口にした。オレには何していいかさっぱりー、とか小さくつぶやく。同感なのか、カシュリーダやカルマラもうんうんうなずいている。
 元々不安だっただけに、北斗やコブシなんかは曇った顔で互いに見合ってうつむいた。シリウスは眉をひそめてレーナの方を見る。
「技の力もそうだけど、今一番修得しなければならないのは戦い方だ。対魔族の戦い方のコツ。これがわかるとかなり戦えるようになる」
 レーナはにっこりと笑った。
「たとえば土系。土系を極めていくと、金属なども操れるようになるって知ってるか?」
 そう聞いて彼女は神技隊の面々を見る。彼らは大きく首を横に振った。
「あんまり知られてないんだよな、これは。神の中でも知らない奴が多い。まー、神や魔族は大抵、二、三種類ぐらいは戦闘で使いこなせるのが当たり前だから、必要に迫られないんだろうな。だが人間は違う。鍛えて磨いてそのことに気がついた技使いの中には、その特徴を生かして、魔族退治で稼いでいる者もいる。縦横無尽に飛び回る刃で有名なのが――――」
「刃雨のカルム」
 はかったかのようなタイミングでシリウスが口を挟む。レーナはうんとうなずく。
「他にも……たとえば炎系だったとしたら……竜のごとくうねる炎を巧みに操り、その隙をついて長剣でとどめを刺すのが――――」
「炎竜のバルハード」
「まあ、つまり、技使い一人だったとしても、戦い方を心得てさえいれば、どうにでもなるということだ。それがお前たち、今は……三十人か、もいるならば、十分すぎる程の戦力じゃないか?」
 神技隊たちは、何と返事をしてよいのやら……曖昧な表情で首を傾けるだけ。
 レーナは吐息をはいて、頬に手を当てた。
「……お前たちが見た魔族ってのがああいう奴らだったからな。普通の魔族はあんな戦い方はしない」
「ああ、あのグニャグニャした触手ことか」
 するといつの間にか側までやってきていたアースが口を挟んだ。思い出したくない光景が頭に浮かび、ミツバは顔をゆがめる。
「あれは戦闘じゃなくてほとんど暴走だ。魔族は戦当時に姿を変えることはしない。とんでもなく弱くなるからな。だから戦闘方法で言えば人間とそう変わるところはない。ただその精神容量の桁が違うだけ」
 レーナはそう言って、今度は神々の顔を一瞥した。ほとんどがキョトンとした表情をしている。
「……それで、じゃあ具体的にどうするんだ? どうやってその戦い方を修得させるんだ?」
 その彼女と目が合うと、ミケルダはいつになく真面目な顔で詰問した。技使いの修行に関してなら、自分はよく知っているという自負のためだろうか?
「まずはどういった攻撃が有効であるかを教えることだ。そしてそういったものをうまく自分の攻撃方法として吸収させる必要がある。後は慣れだな」
 彼女はそう答えて、満面の笑みを浮かべた。
「そのために手伝いに来てくれたんだろう? 魔族と神の戦闘方法はほぼ同じ。いい練習相手になるよな」
 このときようやく彼らは彼女の意図を理解した。
 あ、相手をさせる気だ。オレたちゃこれっぽっちしかいないのに、あの人数分の相手をさせる気だ……。
 素晴らしい未来を想像して、ミケルダは閉口する。既に悟っていたのか、どうとも感じていない様子でシリウスは腕を組んでいる。カシュリーダはブンブン首を振った。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ。無理よ、私には、そんなこと。私、戦の神ってわけじゃないし、できるわけないわ」
 慌てるカシュリーダの肩を、ポンとカルマラは叩く。
「あきらめなさい、リーダ。せっかくかっこいい人たちとお近づきになれるんだから、辞退するなんて惜しいわよ。上に戻ったって退屈なだけでしょ?」
 そう言うカルマラの目が据わっていることに気づき、カシュリーダは渋々観念した。
 ここで逃げたら後で何言われるかわからない。
「オレたちが実戦形式での訓練に付き合うってことはわかったけど。その有効な攻撃っつーのはお前が教えるんだろうな。オレとかはそういう説明苦手だぞ。シーさんがするとは思えないし」
 妹があきらめたのを確認してからミケルダが言った。もちろん、とレーナは答える。
「じゃあ、神技隊、これから言うからちゃんと聞いて覚えていてくれよ」
 彼女は微笑んだ。



 炎系――――とどめに至る程の攻撃力はなし。だが集中力、俊敏さの低下は望める。個人戦の場合は、精神を込めた武器による攻撃を主とし、その補助に使うのがよい。
 水系――――とどめに至る程の攻撃力はなし。だが用途は広く、他の技との組み合わせにより、相手の身体能力の低下は望める。個人戦の場合は、精神を込めた武器による攻撃を主とし、その補助に使うのがよい。
 土系――――遠距離近距離ともに、武器による攻撃が有効。だが、土系のみでは身体能力に頼りがちである。武器の多様化を図るか、他の系統の技で補助をするとよい。
 風系――――とどめに至る程の攻撃力はなし。だが用途は広く、他の系統の技と相性がいい。補助としての役割も果たす。個人戦の場合は、精神を込めた武器による攻撃を主とし、その補助として使うのがよい。
 雷系――――とどめに至る程の攻撃力はなし。だが、身体能力の低下は望める。武器との相性がよく、攻撃方法は多様。個人戦の場合は、精神を込めた武器による攻撃を主とし、その補助として使うのがよい。
 補助系――――そもそも攻撃力はなし。だがこれがなければ戦当時は話にならない。武器の強化など、用途は広い。個人戦の場合は、精神を込めた武器のみの戦闘となるため、武器の多様化を図るか、他の系統の技で補助をするとよい。
 精神系――――かなりの効果が期待できる。が、精神容量を考えずに使うと後々大変なことになる。個人戦の場合は、精神を込めた武器による攻撃を主とし、とどめの際のみに使うのがよい。もしくは一発大技で決めるのもよい。
 破壊系――――精神系と同じ。

 レーナの話を、梅花が簡単にまとめたものがこれである。
「しかしまあ、よくそんなことまで知ってるわね。私たち、普通そんなことまで考えないけど」
 レーナの説明が終わると、カルマラが怪訝そうな顔つきでそう言った。レーナは小さなため息を一つ。
 ……ここの神でさえそうなのだから、他の神なんかが人間のことを理解しているわけがないか……。ましてや魔族は。
 そんな彼女の心情を察してか否か、シリウスがその肩を軽く叩く。
「普通はこんなもんだ。情報収集など、神同士でしか行わない」
 レーナは彼の顔を見上げて少し寂しそうに笑った。
「ちょっと、シリウス様! それってどういう意味ですか!? え、何? 私何か悪いこと言いました? ねえ」
 カルマラはわけがわからず慌ててわめく。カシュリーダも、何のことを言っているのかとしきりに眉根を寄せている。しかしミケルダは、物珍しそうな表情でしげしげとシリウスを見つめた。
「シ、シーさんが……口説いてる……」
 彼がぽつりともらしたその言葉を聞いて、カルマラとカシュリーダは彼をにらんだ。
『そんなわけない!!』
 二人の声が重なると、シリウスは複雑そうにそんな三人の様子を眺めた。
 否定してくれるのはいいんだが……私は一体どのように思われているんだ?
 そして突き刺さる視線――空気や気にも似たもの――を感じて、彼はその方を目だけで確認する。
「……」
 アースが、彼の方を射殺すような目で見ていた。ミケルダの言葉のせいもあるだろうが、明らかに何かを感じ取っている。
 目を細めてシリウスはレーナの横顔を見た。彼女はイレイに話しかけられて、笑顔でそれを聞いている。
「って話ずれてない? 修行だろ? オレたちがしなきゃいけないのは」
 そこで青葉が口を挟んだ。リンとシンがコクコクとうなずく。
「そうそう、そうよね、修行。ね、シリウス様。で、ミケ、最初はどうするの?」
 パンと手を叩いてひたすら笑顔を浮かべながら、カルマラは二人の側に駆けよった。押された青葉が少し不満そうな顔をしているが、気にはしない。
「えっ、最初……レーナ、あんただったらどうする?」
 一瞬の間をおいてから、ミケルダはそう言ってレーナの方を振り向いた。再び話をふられた彼女は、腕を組みながら彼を見返す。
「われに聞いてばかりいないで少しは自分で考えたらどうだ? まあ、今はいいが。まずは系統別にそれぞれ技の習熟度を把握すること。それからすぐ実戦でいいんじゃないか?  どうせこんな時間じゃそんなに多くは集まらないだろうし」
 真顔でそう言った後、レーナはにこりと微笑んだ。
「……そ、そうだよね。いいですよね、シーさん?」
 何となく気恥ずかしくなり対応に困ったミケルダは、シリウスに助けを求める。シリウスは耳の後ろをかいた。
 相も変わらず、愛情振りまき全開か。
 シリウスは軽くうなずき、神技隊たちの方を見やった。

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